ミツバチに偶然刺されてリウマチが治った 新宿

オハイオ州ペンバービルに住む86歳のオリバー・ウォルストンは、いまでも元気に暮らしている。歩くときは脚をひきずる。成人後の人生の長きにわたって苦しめられた、慢性関節リュウマチの後遺症である。だが、それもむかしの話だ。関節炎は発症してから22年後に消え、いまはもう痛みはない。オリバーは引退の身だが、かつては農夫やビジネスマンを経験し、保険会社の社長、保安官、教育委員会の委員長なども歴任している。「関節炎が治った話に興味をもつ医者にはお目にかかったことがないね」が彼の口ぐせである。

オリバーが関節の痛みを感じはじめたのは30代半ばのことだった。「最初は足の痛みだった」と彼は語る。「それから膝が腫れて、ひどく痛みだした。そうこうするうちに、両手の指、肘、肩、首、背骨にもひろがった。冬になると、腫れた手に合う手袋がないので、ばかでかいミトンをつけていたよ。靴も、それまでより2サイズは大きいのをはいていたね」

ありとあらゆる処方薬と売薬を試したが、効果はどれもその場かぎりでしかなかった。温熱療法やさまざまな局所塗布剤も効果はなかった。物語がはじまったのは彼が64歳、1日に制酸薬調合のアスピリンを12錠、強力アスピリンをふつうのアスピリンを6錠ずつのんで、かろうじて痛みをおさえていた時期だった。オリバーは物語をこう語る。

「その日、いつものように家内がわしのパジャマを洗濯して、物干し綱につるし、乾くと畳んで、寝室に置いた。わしは夜10時に寝室にひきあげて、パジャマに着替えた。午前1時半ごろかな、トイレに行くとちゅうで、左脚の膝にチクッと刺されたような痛みを感じた。ズボンのうえからピシャッとたたいて脚をふると、裾から蜜蜂の死骸がポロッとでてきた。蜂が刺したあとは腫れて痛んでいたが、2日たったら、なんと左膝の関節炎の腫れがひきはじめたんだ。翌日、蜂に刺された痛みもなくなったので、強力アスピリンをのむのをやめてみた。全身の関節の痛みと腫れがひきはじめていたからね。そして2週間後には、くすりをぜんぶやめてしまった。1か月から1か月半のあいだに、からだじゅうの関節の炎症と腫れがきれいになくなったんだよ。それ以来、関節炎には1度も悩まされたことがないし、おまけに以前のサイズの靴がはけるようになったのさ」

わたしはオリバー・ウォルストンに彼自身の見解を聞いてみた。「わからんね」彼は答えた。「母なる自然がなにか気のきいたことをしてくれたんだろう。だが、関節炎の人をつかまえて、蜜蜂に刺されてこいとすすめる気はないな。効く人もいるだろうし、かえって悪くなる人もいるかもしれん」

じつは、慢性関節リュウマチなどの炎症や自己免疫疾患にたいする蜜蜂療法には長い歴史がある。「エイピ(蜜蜂)セラピー」「蜜蜂毒療法」などと称して、1 部の医師にも使われている。蜜蜂の毒はひじょうに強力な生体活性成分の混合物で、そのなかにはめざましい消炎効果があるものもふくまれている。たとえばアドラピンやメリチンはふつうのステロイド剤より強力であり、現在フランスで研究がすすめられているアパミンは、自己免疫が関係しているとみられる多発性硬化症の治療薬として有望視されている。

精製された蜜蜂毒は皮下注射薬としても使えるが、蜜蜂療法家の多くは生きた蜜蜂を直接患者に用いることを好む。蜂をピンセットではさんで患部に近づけ、刺させるのだ。療法家たちによれば、たとえ1度に多くの箇所を刺しても危険はまずないという。実際、蜜蜂療法は短い間をおいて何度もくり返すのがふつうである。

しかし、オリバー・ウォルソンは正式に蜜蜂療法を受けたわけではない。たまたま1回だけ刺され、それがなぜか積年の自己免疫障害のダイナミクスに変化をもたらして、全面的かつ永久的な治癒反応を賦活することになったのである。軟骨の広汎な破壊が生じた関節の可動性はやや制限されているが、この20年間、活動的な炎症や関節炎の進行はみられない。

「長いあいだにたくさんの医者に世話になったわけでしょ。ひとりぐらい、なぜ治ったかをしらべようとする人はいなかったんですか」と聞いてみた。

「いない」と彼はきっぱり答えた。「あれほど使っていたくすりをわしが買わなくなって残念がっている医者はいるだろうがね」

 

癒す心、治る力
 アンドルー・ワイル著 角川文庫ソフィア
 五章 治癒系  治癒の顔 オリバー

 

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